糸島・志摩松隈|一期一会を感じに。物語のある器に出会う「自然窯」

糸島・志摩松隈|一期一会を感じに。物語のある器に出会う「自然窯」

たくさんの窯元がある糸島でも、ひときわ存在感を放つ「自然窯(じねんよう)」さん。
そこは、この地域の自然と陶芸家・村上誠吉さんの感性が織りなす、生き生きとした作品たちであふれています。

独自の世界観と他にはない器との出会いを楽しめる、その魅力をご紹介します。

詳しくなくても大丈夫。五感を使って楽しめる魅惑的な陶の世界

アクセス

筑前前原駅からは車で約10分、前原ICからは車で20分ほどの場所にある「自然窯(じねんよう)」さん。志摩松隈の田畑や山林が広がる静かな風景のなか、県道85号線沿いの看板が入り口の合図です。

畑の間を通り、山林沿いの細い道へ。案内看板の通りに進むとそこには木々に囲まれた駐車スペースがあり、その先に工房兼ギャラリーが見えてきます。

周囲には大きな柿の木や夏みかんなどの木々が立ち並び、鳥のさえずりや虫の声が響き自然の息吹に満ちていて、まるで昔話に出てくるような懐かしさを感じる空間です。

 

「焼きもの」の根源に、自然の力

ギャラリー入り口のチャイムを鳴らすと、迎えてくれたのはこちらの自然窯を開窯した陶芸家、故・村上誠吉さんの奥様である村上子裕子(ゆうこ)さん。

店内に入ると、ずらりと並ぶ作品の土の風合いのためか、真夏にもかかわらずひんやりと涼しさを感じる雰囲気。大小さまざまな作品には季節の草花や木の実がさりげなく添えられ、空間を彩ります。

こちらは、かつて栃木にて益子焼(ましこやき)を制作されていた誠吉さんが、約40年前に糸島に移住して開窯した窯元。

ギャラリー入口に置かれたリーフレットには次のような窯元の理念も綴られています。

『「じねん」は「自然」の古語ですが、すべて命あるものは、むかしから今日までその生活の根本を自然の力に求め、そこに帰ってゆくものです。

「焼きもの」もまたこの自然から力を受け、人間の生活を豊かなものにしてきました。

身近にある粘土・草・木・灰・赤土等を大事にして自然と生活との一体調和のなかから、味のある作品を目指して取り組んでゆきたいと願っています。』

益子焼の素朴な土の風合いと糸島の自然の素材との調和を求め、何よりも自然の力を拠り所とする。そんなものづくりへの姿勢が、自然窯のどっしりと深く、かつ軽やかな動きや流れも感じるような世界観を作り出しています。

 

自由で多様な表情をもつ作品たち

特に目を引くのは、店内のいたるところに展示された大きな花器たち。

どれも土の質感が力強く、手でじっくり仕上げられたであろうその時間も感じられるような、風格のあるたたずまい。広々とした空間でも映える作品たちです。

他にも、湯呑やそば猪口、片口にお猪口、茶碗、一輪挿しに置物など、そのひとつひとつの姿、形、絵柄や色合い、質感が異なるものばかり。焼き加減などによって照りや風合いが全く異なる仕上がりになるのだそうで、もちろん作品はすべて一点ものです。

コーヒーカップやご飯茶碗は贈り物にも人気なのだそうで、暖かみのある土の質感が触れる手や口元に心地よく馴染み、ほどよい重さが使いやすいひと品です。

不思議な形や抽象画のような模様もあったり、鮮やかな色使いの作品も多くありますが、案外と普段の食卓になじんで使いやすいのだそう。「描き込みすぎない、少し隙のある絵付けが特徴なのよ」と、裕子さん。

動物や植物モチーフの作品も多く、猫やウサギ、イノシシの飾りがちょこんと乗っていたり、よく見てみるとユーモア溢れる作品をあちらこちらに見つけることができます。

色々な動物シリーズ、植物シリーズを見つけて面白がっていると、裕子さんから「きのこ模様のもあるのよ~」と教えていただいたのはこちらの花器。なんでも村上さん夫婦の共通の趣味がきのこ狩りだったそうで、思わずくすっと笑ってしまう可愛らしいデザイン。

遊び心を感じる作品たちの数々に、作り手の人柄にも興味がわいてきます。

「同じものは作るのは面白くない」と、いくら条件が良くても、ご自身が納得できない依頼は断っていたという誠吉さん。色々と苦労したのよ、とおっしゃる裕子さんのお話を伺いつつ、自分が作りたいものを作るという強い信念が、このような生き生きとした作品を生みだしたのかもしれないなあと、本当に純粋な思いでものづくりをされた方なのだなという印象が強くなります。

 

器に宿る物語

こちらでは、さまざまな作品について制作時の逸話を教えてくれるのも楽しいひととき。

「近くで得た素材を使うの。ご近所でたまたま手に入れた柿の灰で実験したときは最初はこんな色でね、色々と試してだんだんこんな風な色合いが出せるようになって。 」

「これは、近くで遊んでいた子供たちが投げた縄がたまたまぶつかって跡がついちゃって。それを面白がって作りはじめた模様でね…。」

などなど、興味深いお話が盛りだくさん。

裕子さんも陶芸をされていたため、おふたりの合作についてのエピソードも伺いました。そのお話のひとつをご紹介。

ある日、裕子さんが制作中の長皿が、焼き上げの際に真っ二つに割れてしまいました。これは使い物にならない、と捨てようとしていたところ、何かをひらめいた誠吉さんがそれを止めて、何やら形を整え絵付けをこちらの作品を完成させたのだそう。失敗も、アイディアのみなもと!「庭で何か見つけたのを描いたのかしらね~」なんておっしゃる不思議な生き物のような絵柄も相まって、なんだか良いなあ、とほっこりとした気持ちにさせてくれます。

作品にまつわる物語を聞いていると、陶芸に詳しくなくても、作品がより一層魅力的に見えはじめてきて、器をもっと自由に楽しみたいなと思いはじめてくるので不思議です。

 

五感で楽しむ、陶の世界

ものにも作る人の魂が宿る。楽しみながら作られた作品たちには、その気持ちが通じるかのように使う人にも何かしらの作用が生まれるような気がします。

私自身、自然窯さんに通うようになり、器を用いて何気ない普段の生活を彩りたいという意識が強くなりました。

朝のコーヒーは、優しい色味で手にしっくり馴染むカップで飲むともっと美味しくなるかな

採れたての生命力溢れる夏野菜は、存在感も負けない土の風合いしっかりの大皿にどんと盛りたいな…。

いつものちょっとしたおつまみだけれど、たまにはこの高台の小皿に盛ってみたら面白そう…。

ぐるぐると頭の中で食卓風景を想像するのも、楽しい時間です。 

作品を味わいつつ、その物語に触れる。ひとつの器との出会いをきっかけに、自分自身の日常に変化が生まれる。そんな体験ができる場所が自然窯さんです。たかが器、されど器。

そして、裕子さんとのおしゃべりは毎回癒しの時間…。今回は自家製の夏みかんの菓子をいただきながら。ついつい長居しちゃいます。)

陶芸に興味がある人もない人も、実際に足を運びその空気感を感じ、作品とじっくり対話しながらこの世界に浸ってみてほしい。

そしてそこでしっくりとくる器との出会いがあったなら、素敵な一期一会に違いないはず。

自然窯さんの器のように、みなさんも自由に陶の世界を楽しんでみてはいかがでしょうか。

INFORMATION

店名:

自然窯(じねんよう)

住所:

福岡県糸島市志摩松隈112

電話番号:

092-327-2100

営業時間:

9:00~18:00

定休日:

不定休

一人当たりの予算:

¥1,000~

※記事内の情報は記事執筆時点のものです。正確な情報とは異なる可能性がございますので、最新の情報は直接店舗にお問い合わせください。

 

WRITTEN BY
sachie

sachie

公認ライター

連載賞 2023

連載賞 2023

2023年にメディア上にて、連載記事を担当したライターに贈られる賞です。

2022年秋、糸島移住スタート。 趣味は、散歩散策、呑むこと、細野晴臣。 八百屋業をしていたため農家さんへの尊敬の念が深く、 美味しい野菜が身近にあるのが幸せ。 最近気になるのは森林のこと。 「なんか良いなぁ」という直感を大切に、糸島の人ものことの魅力を掘り下げて行きたいと思っています。